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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

ある朝のギャルのこと

みやした蕚

 

  毎朝食パンに蜂蜜を塗って食べている。朝の光に艶めく蜂蜜を見るたび、私は高校時代のある朝のことを思い出す。
 山奥から1人バスに乗って登校していた私は、いつも仲良くしている友人たちの中では最後に教室に入るのが常だった。すぐ近所に住んでいて自転車でやってくる子達、少し遠くの街から電車で通っている子達、それよりも早く、1番目に学校に来るのは決まっていつも隣町から親の車で通うギャルだった。
 普段通りに教室に入れば、それまで談笑していたみんなの顔がこちらに向く。おはよう、と気の抜けた挨拶を交わし、自分もその輪の中に混ざってホームルームまでのひとときを過ごす。その日はギャルの机の上に置かれた何かの箱を囲ってみんなが話していたようだった。近くまで寄ってみれば箱は大きなタッパーだと気づく。ギャルはよくスコーンやタルトを手作りしては持ってきてくれたり、ギャルのママが私たち全員分のキンパを作って持たせてくれていたりするので、ひょっとして、と私はその中身に期待した。
 「ギャル、それなに?」
 私が尋ねると、ギャルはニヤリ、としてタッパーの蓋を開けて見せてくれた。するとびっくり、大きなタッパーの中には巣蜜がぎっしり詰まっていたのだ。
 「みんなで食べようと思って!」
 ギャルはサプライズ成功、と言わんばかりの表情で紙コップと箸を用意し始める。
 巣蜜なんて今までに見たこともなかった私たちは、えっ、これそのまま食べられるの!?とただただ驚くばかり。ギャルがタッパーの中、大きな厚い板のような巣蜜に箸を差し込むと、中から透き通った琥珀色のはちみつが、堰を切ったように溢れ出した。それを均等に分け、はいっ、と紙コップに入れて渡される。蜂の巣をそのまま食べる経験なんて、普通に暮らしていてそうそうありはしないだろう。みんなも私も、恐る恐る巣蜜を齧ってみる。いつもは騒がしい教室が、この時だけ静寂に包まれた。しばしの沈黙ののち、みんなが口々に声を上げた。
 「めちゃくちゃ美味しい・・・!」
 口の中でほろほろ崩れる蜂の巣と、ぐっと甘いけれど花の香りが鼻に抜けるような爽やかさのある蜜が、今までに食べてきたどんな蜂蜜よりも絶品だった。
 「やろ!?」とギャルが嬉しそうな顔をする。
 「おとんが育ててん、この蜂蜜!」
 今も彼女の父上は養蜂をされているのだろうか。それにしてもギャルが学校に巣蜜を持ってくる絵面は、中々シュールだったなあ、と思い出し笑いしつつ、今日も食パンに蜂蜜を塗って齧る。

 

(完)

 

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