みつる
焼き立てパンにとろけるバターそしてその上に蜂蜜をたっぷりと塗り、温かい紅茶と共に食べる。子供の頃からこの組み合わせが大好きだった。
いつも我が家にあった蜂蜜は、何故か父方の祖母が定期的にくれたものだった。祖母は私の両親と折り合いが悪く、頑固な人だったので孫の私もあまり懐かなかった。祖母もそんな私が扱いにくかったのだろう、祖母が亡くなる時まで心を開いて語らいあうような時間を過ごした記憶もない。本人も子供に懐かれることがないというような話をしていたことがある。今思うと不器用な人だったのであろう。うまく愛情表現ができない代わりに、何かと物をくれるような人だった。それは私が結婚してからも続き、いつも義務的に訪れる私にお土産にと渡すのは決まって蜂蜜だった。
いつだったか、この容器が便利だと言ってアカシア蜂蜜の切れを良くする容器に入ったものをくれたことがあった。祖母の頑固さや折り合いの悪さをしょっちゅう両親から聞いていた私は、お土産もいつものように義務的なお礼を言って受け取り祖母の家を後にした。
数年前、スエーデンに旅行に行ったことがある。往路の途中私は熱を出し喉の痛みに襲われた。スエーデンでは友人の家にお世話になる事になっていたが、そんな私の様子を見て、友人のお母さんが心配をして「蜂蜜いる?」と尋ねた。聞けばスエーデンでは風邪をひくとまずは蜂蜜で治そうとするのだと話していた。その経験から、私は喉が痛むと蜂蜜をなめるようになった。
昨年末、年末の大掃除で久しぶりにキッチンを掃除したところ、祖母がくれた蜂蜜容器が出てきた。祖母亡き後もちょこちょこと使ってきたその蜂蜜容器。温かいトーストにかけた蜂蜜の甘さ、スエーデンの友人のお母さんの優しさ、それらが一度に思い出されてハッとした。ずっと私が懐かなかった祖母。両親との関係ばかり見てきたけれど、祖母は私への不器用な愛情表現として蜂蜜を渡し続けてくれたのではなかったのだろうか。そういえばいつも手渡す時「身体に気を付けて。」というのが常だった。
今では、少し古びてきたアカシア蜂蜜の容器。これから先、私はこれを手に取る度、今更ながらに祖母の気持ちを思うのだろう。
(完)
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