松本俊彦
私は、毎朝パンを食べる。妻がパンを焼いてくれる。パンに塗るものはさまざまである。いちごジャムだったり、バターだったり、マーマレードだったり、りんごジャムだったり。それも、妻が塗ってくれる。私は何も言わない。出されたものを黙って食べる。その中にハチミツもある。妻がパンに何を塗るか。特にルールはない。たまたま目についたものを塗っているのか、妻がその日食べたいものを塗っているのか、それはわからないし、聞いたこともない。私は、ただ出されたものを食べるだけである。それでも、ハチミツの朝は何か得した気持ちになる。私は甘党で、ハチミツは、妻がパンに塗るものの中で一番甘いものだから。
私が休みの日など、朝が忙しくない日は、ごくたまにパン以外のものが出てくる。フレンチトーストだったり、スティックパンだったり。その中に、パンケーキがある。パンケーキには、生クリームを塗って、その上からさらにハチミツをたらして、思い切り甘くして食べる。それに温めた牛乳があれば、もう何も言うことはない。それだけで、満ち足りた気分になるし、ああ、今日は休日なんだと思える。パンケーキが平日に出てくることはないので、私の脳はパンケーキを食べる日は休日だとインプットされているのだ。
何が言いたいかというと、甘いハチミツは、とにかく私を幸せな気持ちにさせてくれるということだ。ハチミツは、大げさに言うと、私の人生を豊かにしてくれる調味料だと言える。それが口に入るだけで、その日は特別な気分になる。甘いと言えばそれまでだが、その甘さは、他のスイーツのどんな甘さとも違う。
実は、私は今年で六十歳。今年で三十五年勤めた会社を退職する。それから、二人の娘は、もう二人とも何年か前に独立して我が家を出て行っている。つまり、今の我が家は私と妻の二人家族である。そんなこともあって、これからは妻と二人で過ごす時間がこれまでより長くなると思う。仲は悪くない。けんかはまったくしない。しかし、ハチミツがあれば、さらに妻と仲良くなれそうな気がする。自分の心が和やかになれそうな気がする。ハチミツは、やはり私の人生を豊かにしてくれる調味料だと思う。
(完)
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