はちみつ家　>　蜂蜜エッセイ

心のお守り

池山夏美

　会社に入りたてのころ、慣れないヒールに苦手な満員電車、新しいことだらけで緊張の毎日だった。疲れが溜まると決まって扁桃腺が腫れ高熱が出た。
　会社を休む電話をかけることも憂鬱で、とにもかくにも誰かから風邪をもらわないように、体を冷やさないように過ごしてもまた風邪をひく。自分の体調管理すらできないことに嫌気がさし、なぜ自分ばかりと嘆いていた。悔しかった。遅くまで飲んでも次の日けろりとしているタフな同僚が羨ましかった。
　そこで元来負けず嫌いの私は身体に良いことを徹底的に調べてみた。
　首、手首、足首という首と名の付くところは絶対に冷やさない。睡眠時間だけでなく質も大切に。体調異変を感じたらマッサージに行く。にんにくを食べる。サプリや漢方を上手く使う。ネットや本で拾い読みした健康法は簡単に試せる物もあるけれど、お金がかかったり、時間がとれなかったり、匂いが気になったりと、なかなか自分のなかでしっくり来るものがなかった。そうした中で、蜂蜜に出会った。
　少しのどに違和感を覚えた時はすぐさまマヌカハニーのど飴を舐め、しょうが湯に蜂蜜を追加して体を温める。こんな簡単でたいしたコストもかからないこの方法が意外にも自分にとってベストな方法だった。
　それからもう六年経つ。インフルエンザにかかった以外は一度も風邪で会社を休んだことがない。自分でも信じられないくらいだ。あんなにも身体が弱かったのにと家族や同僚も驚いている。
　もちろん蜂蜜は万能薬ではない。たまたま蜂蜜と出会った同時期に自分の免疫力が上がっただけなのかもしれない。けれど今の私があるのは間違いなく蜂蜜に出会ったからだと思う。自分の弱いことと向き合って、身体のちょっとした変化にも耳を傾けるようになったからこそ今の自分になれたのだ。少しの違和感を覚えたら、いつもの食事に瓶から掬った蜂蜜をとろりとスプーンで落とす。ヨーグルトやトーストにかけたり、飲み物にも合う。
　蜂蜜の優しい甘さやとろりとした感触が心も身体も癒し、私の心のお守りとなっている。
　こうして私と家族が平穏無事に過ごせていることを忘れてしまうくらい、健康な毎日を与えてくれている蜂蜜に、蜜蜂、養蜂家の皆さんへ感謝を申し上げたい。

（完）