詩織
琥珀色の、とろりとつやつやとしたはちみつが瓶の中で輝く。瓶を傾きに合わせ、少し遅れて行ったりきたり。この少しのタイムラグが、忙しくした頭と体に心地よく緊張が解けてゆく。
寒さ厳しくなる時期、たっぷりと生姜を煮立て、カップにそそぐ。そこへはちみつをたっぷりひと匙。生姜を煮立てている間に、琥珀色のはちみつを揺らしながら愛でる。瓶のふちで結晶になった蜜は、一緒に湯に溶いてしまうか、そのまま口に含むか。
あっつあつの湯に、ピりっとした生姜の辛味が喉に流れ、はちみつのまろやかさと、甘味が鼻に抜け、一気に肩の力が抜ける。「ふわぁぁ~、極楽極楽」脳内でははちみつ生姜風呂に肩までたっぷりとつかる自分を想像しながら、はちみつ生姜湯を堪能する。
子供の頃は、部活の試合や練習に、母が「はちみつレモン」を作ってもってきてくれた。おなかの底からめいいっぱい声を出し、走り回っている身体に、レモンの酸っぱさのほとんど感じない甘さが喉を潤し、頬が緩む。母の作るあの「はちみつれもん」は、どうやっても作ることができない。隠し味も、隠し食材もないらしいのに、なぜか同じものが出来上がらない。やはり「愛情」というものなのか、と、自分があの頃の母と同じ歳に近づいてきて思う。
はちみつもまた、子を思う母の愛情なのか。ひと匙で心を解きほぐし、体の隅々まで幸せが巡ってゆく。私の作る「はちみつ生姜湯」もまた、誰かの心に寄り添えるように、「愛情」の加え方を模索せれば、と、いつもより甘くしたはちみつ生姜湯で温まる。
(完)
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