まちねこ
「えいもんもってきたき」
そう言って彼女は自分の背負っていたザックを下ろし、中をごそごそとまさぐった。
「はいこれ。これ食べたらリフレッシュするき」
取り出したのはタッパー。中を覗き込むと液体の中にはレモンの輪切りがたくさん浮かんでいた。
私たちはその日高校の登山部の活動で県内の有名な山に登っていた。女子部員4名という少なさで引率の先生と共に登ったが、おもったよりハードで息もたえだえ。疲れて無口になりながら動かない足を持ち上げていた。そんななか先生が休憩にしようと言ったのだ。
まだ頂上までは遠い。そうみんなが思いそれぞれの飲み物を取り出した時の彼女の言葉だったのだ。
みんながタッパーを囲み、レモンをそれぞれパクり。
「何これ、美味しい」
「レモンのハチミツ漬け、疲れた時にえいがよ」
ハチミツの海に浮かんだレモンは甘くてかつ酸っぱく、疲れが飛んでいく魔法の食べ物だった。
彼女は小学校の時にお母さんが作ってくれたのを食べてから好きになり、自分で作るようになったらしい。激しい運動をするときは作り持ち歩くようになったと言った。今日はみんなの分を持ってきてくれたのだ。彼女の優しさが嬉しかった。
彼女のハチミツレモンを食べたあと、足取り軽くみんなで頂上を目指した。
(完)
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