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ミツバチと共に90年――

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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

見果てぬ夢

西村光郎

 

 ミツバチを飼おうと思いついたきっかけは、飼っていたニワトリが鶏舎に侵入したイタチの被害で死んでしまい、ニワトリほど手間のかからないミツバチを飼うことに思い至った。
 養蜂のミツバチのうち西洋ミツバチはハチを買って巣箱に入れて始められる。一方日本ミツバチは自然界に生息していて分蜂したハチが巣箱に入るのを待たなければならない。当てがない方法だが、その方が面白そうで費用もあまりかからないのでそちらに決めた。
 巣箱は蒸し器のせいろうに似た形で、三十センチ四角、高さ二十センチほどの木枠を二段重ねしたのを一箱作った。養蜂のノウハウは本以外に実際に飼っている人からも話を聞いた。最初に伺った方は商店街の店の二階のベランダで長年飼っておられ街中で養蜂ができていることに驚いた。ミツバチが飛んでいく方向から想像して一キロメートルほど先の後楽園辺りに飛んで行っているのではないだろうかということだった。設置を予定している場所は辺りに果樹園もある自然環境に恵まれた所なので意を強くした。
 またある時、里山の麓で巣箱を見つけた。飼い主を探して伺うと農業の傍ら何ケ所も巣箱を置いて蜂蜜を出荷しているとのこと。趣味の域を越えているだけに楽しみだけではできない一面を知らされた。そこで買って帰ったハチミツは味が濃く、その辺りの花盛りの景色が思い起こされ、いっそう味わい深かった。
 さらには大学の動物学の教授からも話を聞くことができた。フィールドワークの授業では学生にグループごとに巣箱を作らせ、それぞれの設置場所で蜂が入ったかどうかその原因を考察させているとのこと。私が設置した巣箱を実際に見ていろいろと助言してもらった。巣箱の数を増やした方が入る確率が高いのでさらに三箱作って置いた。
 春先、ミツハチが飛んでいるのを気に留めて見ながら毎年心待ちにしているが一向に入る気配がなく半ば諦めかけていた。ところが三年目の春、一つの巣箱の下の草むらから無数のミツバチが湧くように上がってきて巣箱に出入りしているのを見つけた。ついに入ってくれたと万歳したくなるほど嬉しかったが、翌日見に行くとミツバチの気配はパッタリとなくなっていた。繊細な生き物だけに巣箱の何がいけなかったのか原因がわからず落胆したが、一筋の希望の光を見た思いだった。
 未だにミツバチは入っていないが、養蜂を目指すようになって以前より野に咲く花や昆虫や自然界の営みに目が向くようになった。今年もそろそろ巣箱の手入れをして迎え入れる準備をしていこう。

 

(完)

 

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