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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

琥珀と白の思い出

よしづきかずお

 

 蜂蜜について思い出せる一番最初の記憶は、夕飯の後に父が毎度食べていたヨーグルトのことだ。
 私が実家で両親と暮らしていた頃、50を越えても食欲旺盛な父であったが、健康に気を使い始めてもいて、白米と肉と野菜を十分に食べた後、ノニジュースを飲み、コエンザイム錠剤を飲み、そしてヨーグルトに蜂蜜を混ぜたものを食べていた。父の持つ小皿の中で溶け合うヨーグルトと蜂蜜は、見ているとたまらなく美味しそうで、私も真似をして冷蔵庫から蜂蜜とヨーグルトのパッケージを取り出した。
 手順はこうだ。蜂蜜の瓶にスプーンを入れてすくい出し小皿に移す。冷蔵庫で冷えた蜂蜜は一部が結晶化しており、思ったように出てきてくれなかったが何とかかき出す。それを電子レンジで数十秒だけ加熱する。レンジから取り出した蜂蜜は熱く良い香りがした。そこにヨーグルトを入れ、混ぜて出来上がり。
 早速口に運ぶ。ヨーグルトの冷たさの中に蜂蜜の熱が混ざり合ってあたたかく、それでいて冷たい。そして少しだけ結晶のまま残った蜂蜜のジャリっとした食感。
 すっかりこの食べ物にハマってしまった私は、父と席を並べて毎晩ヨーグルトと蜂蜜を食べるようになった。他の家族はマネしなかった、二人だけの食べ方。それは、大学進学を機に私が実家を離れるまで続いた。
 今でも、ヨーグルトに蜂蜜を食べる習慣は続いている。砂糖の入っていないヨーグルトに、旅先で買った少しいい蜂蜜を混ぜる。実家で食べていたものよりもオレンジ色が強いので何か特別感を感じるのが嬉しい。冷蔵庫に入れてもなかなか結晶化しないので、あの嚙み割る食感がないのは惜しい気もするが、この食べ方は変わらず美味しいままだ。
 師走の始め、冷えが強くなっていく夜には少し温め時間を増やした蜂蜜で作る。年末に帰郷する予定はすでにたっている。実家には他のお土産とともに、今私が食べているものと同じ蜂蜜も持って帰る予定だ。今では年に十日も一緒にいない父だが、帰郷した時には蜂蜜とヨーグルトを混ぜて食べる。あの懐かしい時間がこれからもまだ続いていく。そう思うと年末がより待ち遠しくなった。

 

(完)

 

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