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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

トルコの蜂蜜

森野くま

 

 十年ほどまえにトルコ旅行をした。会社の同僚で仲の良かったトルコ人が「帰省するので僕の故郷に遊びにきませんか」と誘ってくれたのだ。
 彼の家はイスタンブールからバスで5時間ほどかかる観光客はほとんど行かない田舎町だった。
 そのときいろんな場所を案内してくれたが、一番印象に残っているのが蜂蜜だ。
 山間に日本でいえば古民家のような建物があり、その土地の土産物が並べてあった。その中に蜂蜜があった。
 けれどもそれは日本でよく見るものとは違い量が多い。家庭で梅酒などを造るとき使う2リットルくらい入りそうなガラスの瓶に蜂蜜と蜂の巣が一緒に入っていたのだ。そしてその色は琥珀色で美しかった。いつも小ぶりの容器で買っている私にはカルチャーショックだった。
 友人に訊くと料理にも使うが、疲れや風邪にもよく効くらしい。
 「ミツバチが集めてくる花の種類によって効能が違う」と彼の祖母が言っていたそうだ。もう忘れてしまったが値段も手ごろだった気がする。買って帰ろうかとも思ったがその重さを考えるとためらってしまった。
 二日間滞在したあとイスタンブールのバザーやモスクなど定番の観光コースを巡って帰路についたが、そのあいだ蜂蜜に出会うことはなかった。
 いまでもトルコ旅行のパンフレットや動画を見ると、なぜかあの田舎町の古びた店で出会った美しい色の蜂蜜を思い出している。

 

(完)

 

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